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椎間板ヘルニアの保存療法|治療家ができる神経評価

Q. ヘルニアの評価でよく見る臨床パターンは?

A. ヘルニア症状は局所だけでなく、神経の滑走不全、機能ユニットの連動性破綻、重力適応の失敗が複合的に関与します。特に足部からの評価が、症状の根本原因特定に繋がる重要な視点を提供します。

症例提示

40代男性、デスクワーク中心の会社員。主訴は左臀部から大腿後面、下腿外側にかけての痛みとしびれです。腰部を屈曲させたり、長時間の座位で症状が増悪し、特に夕方になるとVAS 7/10に達することがありました。既往歴としては、3年前から慢性的な腰痛があり、半年前から左下肢症状が出現。整形外科ではL5/S1椎間板ヘルニアと診断され、投薬(鎮痛剤)と理学療法(腰部牽引、温熱療法)を受けていましたが、症状の根本的な改善には至っていませんでした。

徒手検査では、SLRは左45°で臀部・大腿後面に放散痛が出現。左足関節背屈のMMTは4/5と軽度低下が見られ、アキレス腱反射は正常でした。知覚検査では、左下腿外側に軽度の鈍麻が認められました。

初回評価|従来の見方ではどうなるか

多くの治療家がこの症例に直面した場合、まずはL5/S1神経根症状に直接アプローチすることを考えるでしょう。腰部の筋緊張緩和を目的としたマッサージやストレッチ、仙腸関節の調整、梨状筋のリリースなどが一般的なアプローチです。たしかに、これらの施術によって一時的な症状の緩和が見られることもあります。

しかし、「なぜヘルニアが起こったのか」「なぜ症状が慢性化しているのか」という根本的な問いに対しては、局所的なアプローチだけでは限界があります。多くの場合、症状の再発や、施術後の持続的な改善が見られず、治療家自身も「どこに問題があるのか」と悩むことになります。この症例においても、初回評価では腰部の可動域制限や筋スパズムに注目しがちですが、これらは結果であり、真の原因を見逃している可能性があります。

GAP理論で再評価|神経・構造・重力の3軸

GAPアカデミーでは、痛みは結果であり、原因は「神経ストレス + 構造破綻 + 重力適応の失敗」と捉えます。この3軸を基に、局所(痛み部位)から見ずに、機能ユニットの評価優先順位に従って再評価を進めます。

  1. 足部(接地)の評価
    • 静的・動的アライメントの観察:左足部の過回内、足趾の機能不全、特に母趾の接地不良。
    • 関節可動性:距骨下関節の可動性制限、舟状骨の過度な下制。
    • 筋機能:足底筋群の活動低下、特に後脛骨筋の機能不全。
  2. 股関節(伝達)の評価
    • 骨盤アライメント:左骨盤の過度な前傾と回旋。
    • 関節可動性:左股関節の内旋制限、屈曲時の骨盤の代償運動。
    • 筋機能:左殿筋群(特に中殿筋、大殿筋)の活動低下と筋力不足。歩行時のトレンデレンブルグ徴候までは至らないものの、軽度の骨盤動揺が見られました。
  3. 胸郭(制御)の評価
    • 呼吸パターン:胸式呼吸優位で、横隔膜の機能低下。
    • 胸郭可動性:胸椎の伸展・回旋制限。特に左回旋時の制限が顕著。
    • 自律神経:慢性的なストレスによる交感神経優位の状態。

この症例では、左足部の過回内と足趾の機能不全が、荷重時の衝撃吸収と推進力伝達を阻害していました。これにより、股関節が代償的に過剰な負荷を受け、左殿筋群の機能低下と骨盤の不安定性を引き起こしていました。結果として、腰部に過度なストレスが集中し、L5/S1椎間板への負荷が増大していたと考えられます。

神経評価においては、L5/S1神経根症状だけでなく、梨状筋下孔での坐骨神経の滑走不全や、足関節背屈筋群を支配する深腓骨神経へのストレスも考慮します。特に、足部からの機能不全が、神経の滑走経路全体に影響を及ぼしている可能性を深く掘り下げて評価しました。

見立ての結論|どの神経・どの構造が問題だったか

この症例の核心は、局所のL5/S1椎間板ヘルニアという診断名に囚われず、全身の連動性、特に機能ユニットの連鎖的な破綻にありました。

神経単位での見立て:

  • 局所のL5/S1神経根圧迫に加え、左足部の過回内による距骨下関節の不安定性が、下腿の筋肉(特に後脛骨筋)を介して深腓骨神経への伸張ストレスを引き起こしていた。
  • 股関節の機能不全と骨盤の不安定性が、梨状筋の過緊張を誘発し、梨状筋下孔における坐骨神経の滑走不全を助長していた。
  • これらの複合的な神経ストレスが、腰部から下肢への放散痛としびれを増悪させていた。

機能ユニットの破綻ポイント:

この患者さんの慢性化の理由は、痛みの部位である腰部へのアプローチのみに終始し、根本的な原因である「足部の接地機能不全」と「股関節の伝達機能の破綻」、そしてそれらが引き起こす「神経の滑走不全」を見落としていたことにあります。GAPアカデミーの山根悟先生は、痛みの場所に原因はないと常々強調されており、この症例はその典型例と言えます。

アプローチの方向性

この見立てに基づき、アプローチの方向性は以下のようになります。鍼灸、整体、徒手療法など、どの手段を用いるにしても、その目的は「神経ストレスの解放」と「機能ユニットの再構築」にあります。

  1. 足部からのアプローチ:
    • 距骨下関節の可動性改善と安定化。
    • 足底筋群の活性化と足趾の機能回復(特に母趾の接地意識)。
    • 深腓骨神経への滑走不全を改善するためのモビライゼーション。
  2. 股関節の安定性向上:
    • 殿筋群(中殿筋、大殿筋)の再教育と筋力強化。
    • 骨盤アライメントの修正と安定化。
    • 梨状筋のリリースと坐骨神経の滑走改善。
  3. 胸郭の可動性改善:
    • 横隔膜呼吸の指導と胸郭の伸展・回旋可動域の改善。
    • 自律神経系の調整を目的としたアプローチ。

局所的な施術だけでなく、これらの遠隔部位へのアプローチを組み合わせることで、神経への負荷を軽減し、身体全体の機能連動性を高めることが、再現性のある変化を生む鍵となります。

この症例から学ぶ視点

  • 痛みは結果であり、原因は遠隔にある可能性を常に疑う。
    局所の診断名に囚われず、全身の連動性を俯瞰する視点を持つことが重要です。
  • 神経・構造・重力の3軸で全体像を捉える。
    単一の原因ではなく、複数の要因が絡み合って症状を形成していることを理解します。
  • 機能ユニット(足部→股関節→胸郭)の連動性を評価する重要性。
    特に足部の接地機能は、全身の運動連鎖に大きな影響を与えます。
  • 神経の滑走不全や圧迫ストレスを特定する大切さ。
    「どの神経が、どこで、どのようなストレスを受けているか」を明確にすることで、的確なアプローチが可能になります。
  • 再現性のある評価が、再現性のある施術に繋がる。
    体系化された評価手順を踏むことで、誰が施術しても一定の結果を出すための基礎を築けます。

よくある質問(治療家向け)

Q. この症例で他にどんな鑑別を考えるか?

A. 梨状筋症候群、仙腸関節機能障害、ファセット症候群、血管性間欠跛行などが鑑別疾患として挙げられます。特に神経絞扼部位の鑑別は重要で、問診と徒手検査から絞り込み、必要に応じてさらなる精査を促す視点も持ちます。

Q. ヘルニアの画像所見と臨床症状が一致しない場合、どう考えるべきか?

A. 画像所見は構造的な変化を示すものであり、必ずしも痛みの原因を直接示さない場合が多いです。神経の機能的ストレス(滑走不全、伸張)や、上位・下位ユニットの機能破綻を優先して評価します。画像はあくまで参考情報の一つとして捉え、目の前の患者の身体所見を重視します。

Q. 足部の評価は具体的にどう進めるべきか?

A. まずは静的・動的アライメントの観察から始めます。距骨下関節の可動性、足底筋群の触診、足趾の把持力評価、荷重時の重心移動を確認し、歩行分析と合わせて総合的に判断します。特に、内側縦アーチの支持性や足趾の機能が重要です。

Q. 慢性的なヘルニア症状に対して、自律神経系へのアプローチは必要か?

A. 慢性痛は自律神経系の関与が非常に高いです。特に胸郭の可動性、呼吸パターン、上位頸椎の機能不全を評価し、交感神経優位の状態を緩和するアプローチは有効です。患者さんの睡眠の質やストレスレベルも考慮に入れるべきです。

Q. 患者への説明で、ヘルニアの診断名をどう扱うべきか?

A. 診断名は尊重しつつ、「ヘルニアは現状を表すものであり、痛みの根本原因は他に複合的な要因がある」と説明します。患者が理解しやすい言葉で、局所だけでなく全身の連動性を伝えることが重要です。不要な不安を煽らず、希望を持たせる説明を心がけます。

Q. セルフケア指導をどう設計するか?

A. 足部の安定性向上(足趾の運動、足底アーチの意識)、股関節の安定化エクササイズ、正しい呼吸パターンの習得など、機能ユニットの再構築を目的としたシンプルな運動を指導します。患者が継続しやすいように、日常生活に取り入れやすい形での提案が効果的です。

椎間板ヘルニアの保存療法において、真に「治せる治療家」となるためには、局所的な視点から一歩踏み出し、神経・構造・重力の3軸で全身を評価する視点が不可欠です。この症例のように、教科書通りの診断名に囚われず、機能ユニットの連動性や神経の滑走不全を深く見立てることで、患者さんの症状改善に大きく貢献できます。症例の見立てを深めたい方は、月3回開催のGAPアカデミーセミナーで、実技を含めて体系的に学ぶことができます。治療家として「治せる」を再現する、その第一歩をGAPアカデミーで踏み出しませんか。




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