術後の疼痛管理と機能回復アプローチ
Q. 術後疼痛でよく見る臨床パターンは?
A. 術後の局所に着目しがちですが、多くの場合、神経の滑走不全や機能ユニットの破綻が慢性痛の原因です。特に術部から離れた足部や股関節の機能不全が、神経ストレスを増悪させているケースが散見されます。
臨床において、術後疼痛の訴えは少なくありません。特に整形外科的な手術後、局所へのアプローチだけでは改善が見られない症例に、多くの治療家が頭を悩ませているのではないでしょうか。今回は、そのような術後疼痛の一例を通して、見立ての変遷とGAPアカデミーが提唱する神経構造アプローチの視点を共有します。
症例提示
臨床でよく相談を受けるパターンとして、以下のような症例があります。
- 患者プロフィール: 行徳在住の40代女性、デスクワーク中心。
- 主訴: 右膝内側の疼痛。特に階段昇降時と長時間座位からの立ち上がり時に痛みが強くなる。
- 既往歴: 6ヶ月前に右膝半月板損傷に対する関節鏡視下手術を実施。
- 来院経緯: 手術後、整形外科でのリハビリを継続するも疼痛が改善せず。医師からは「術後の癒着と筋力不足」と説明され、自身でもストレッチや筋力トレーニングを試みるが効果を実感できないため、新たなアプローチを求めて相談にいらした。
- 主訴の詳細: 疼痛部位は右膝内側、特に脛骨内側顆周辺。安静時はVAS 2/10程度だが、負荷時にはVAS 6/10に増悪。鈍痛が主体だが、時にはピリピリとした神経痛様の感覚も訴える。
初回評価|従来の見方ではどうなるか
この症例に対し、多くの治療家が初回評価で以下のような点に着目しがちです。
- 術部の評価: 膝関節の可動域制限(屈曲120°、健側135°)、術部周辺の瘢痕組織の硬結、圧痛。
- 筋力評価: 大腿四頭筋(特に内側広筋)の筋力低下(MMT 4)、周囲筋の萎縮。
- 炎症反応: 軽度の熱感や腫脹の有無。
- 疼痛誘発テスト: 膝関節のストレス(内反・外反)テスト。
これらの評価から、「術後の癒着による可動域制限」「筋力低下による不安定性」「局所の炎症」といった見立てに至り、それらに対するアプローチ(瘢痕剥離、筋力トレーニング、電気療法など)を試みることが一般的です。しかし、この症例のように、それらを継続しても改善が見られない場合、根本的な原因を見落としている可能性があります。
GAP理論で再評価|神経・構造・重力への新たな視点
山根悟(D.C.)が主宰するGAPアカデミーでは、痛みの根本原因を「神経ストレス」「構造破綻」「重力適応の失敗」と捉え、局所にとらわれない全身の機能ユニットを評価します。この症例をこの視点で再評価すると、以下のような新たな側面が見えてきます。
評価優先順位に基づく機能ユニットの確認
- 足部(接地ユニット):
- 右足部の回内傾向が顕著で、立位での重心動揺が大きい。
- 母趾外転筋の機能低下と距骨下関節の可動性低下が確認され、足底接地時の不安定性が高い。
- 足関節背屈ROMは10°に制限され、健側(20°)と比較して明らかに低下している。
- 股関節(伝達ユニット):
- 右股関節の内旋制限(ROM 25°、健側40°)と外転筋群(中殿筋・小殿筋)の筋力低下(MMT 3+)が見られる。
- 股関節の安定性低下が、膝関節への過剰な回旋ストレスを生み出している可能性が高い。
- 胸郭(制御ユニット):
- 右側胸郭の回旋制限と、呼吸時の肋骨の動きに左右差が認められる。これは横隔膜の機能不全を示唆し、自律神経系の影響も考慮すべき点です。
神経評価の深化
膝内側痛は、単なる関節の問題だけでなく、神経の関与を強く疑うべきです。この症例では特に以下の神経に注目しました。
- 伏在神経: 大腿神経の枝であり、膝関節内側部から下腿内側にかけての感覚を支配します。術部の瘢痕組織が伏在神経の滑走を阻害し、機械的ストレスを与えている可能性が高い。
- 閉鎖神経: 大腿内転筋群を支配し、膝関節内側にも一部枝を出すことがあります。股関節の機能不全が閉鎖神経にストレスを与え、関連痛として膝内側に出現している可能性も鑑別に入れます。
特に、術後6ヶ月経過しても改善しない疼痛は、神経の機械的ストレスが持続していることを強く示唆します。単なる癒着ではなく、神経の滑走不全を見抜く視点が重要です。
見立ての結論|どの神経・どの構造が問題だったか
この症例の膝内側痛は、術部の瘢痕組織による伏在神経への直接的な機械的ストレスに加え、足部の接地機能不全と股関節の安定性低下が複合的に関与していると結論付けられました。足部と股関節の機能ユニットの破綻が重力適応を阻害し、膝関節への過剰な負担を発生させ、結果として伏在神経の滑走不全を助長していました。
従来の「局所の炎症・筋力低下・癒着」という見立てだけでは、神経の滑走不全と機能ユニットの連動性の問題を見落としてしまうため、慢性化に繋がっていたと考えられます。
アプローチの方向性
見立ての結論に基づき、アプローチの方向性は「神経ストレスの解放」を主眼に置きます。GAPアカデミーでは、鍼灸、整体、徒手療法といった手段の如何に関わらず、目的は神経の機能改善にあると考えます。
- 伏在神経の滑走性改善: 術部周辺の瘢痕組織と神経走行に沿った軟部組織へのアプローチにより、伏在神経の滑走性を高めます。
- 足部機能の改善: 母趾外転筋の活性化、距骨下関節のモビリゼーションを行い、安定した接地を促します。
- 股関節の安定化: 中殿筋・小殿筋の再教育と股関節周囲筋のバランス調整により、膝への回旋ストレスを軽減します。
- 胸郭の可動性改善: 呼吸パターンや胸郭の柔軟性を改善し、全身の連動性と自律神経の調整を図ります。
局所だけでなく、機能ユニット全体を見渡し、神経の滑走不全を解除することで、再現性のある変化を生み出すことが可能になります。
この症例から学ぶ視点
- 痛みの場所=原因ではない: 膝の痛みであっても、足部や股関節、さらには胸郭の機能不全が影響している可能性を常に考慮する。
- 神経評価の重要性: 慢性化した疼痛では、単なる筋骨格系の問題だけでなく、どの神経が、どのようにストレスを受けているかを特定することが解決への鍵となる。
- 機能ユニットの連動性: 人体は各機能ユニットが密接に連携しており、一つのユニットの破綻が他のユニットに波及することを理解する。
- 術後疼痛の深層: 術後の癒着や筋力低下だけでなく、神経の機械的ストレスや全身の重力適応能力の低下を見抜く視点を持つ。
よくある質問(治療家向け)
Q. この症例で他にどんな鑑別を考えるか?
A. 伏在神経以外にも、大腿神経の腰神経叢からの走行ストレス、または閉鎖神経の関与を鑑別します。また、膝関節周辺の他の末梢神経(腓骨神経、脛骨神経など)の関与も考慮し、徒手検査や触診でその可能性を排除していきます。
Q. 他院では何が見落とされがちか?
A. 多くの治療院では術部や膝関節周囲の筋力低下、可動域制限に焦点が当たりがちです。しかし、足部の接地機能不全や股関節の安定性低下といった、膝から離れた部位の機能ユニットの破綻、そして神経の滑走不全が原因であるケースが見落とされやすい傾向にあります。
Q. 瘢痕組織と神経滑走不全の見分け方は?
A. 瘢痕組織は局所の硬結や圧痛として触知できますが、神経滑走不全は神経走行に沿った絞扼感や特定の肢位での神経症状の誘発で判断します。神経モビライゼーションテストで症状が再現されるか、また神経の走行に沿った触診での硬結や圧痛の有無も重要な鑑別点です。
Q. 患者への説明で気をつけるべき点は?
A. 術後の患者さんは「膝が悪い」という認識が強いため、痛みの原因が膝以外にもあることを丁寧に説明することが重要です。「膝の痛みは結果であり、原因は足部や股関節の機能不全、そして神経の通り道にある」というGAP理論の視点を、分かりやすい言葉で伝えるよう心がけます。
Q. セルフケア指導をどう設計するか?
A. 痛みの局所を刺激するのではなく、足部の安定化(足趾の運動、足底アーチの意識)や股関節の機能改善(中殿筋の簡単なエクササイズ)に焦点を当てます。また、神経滑走を促すための軽いストレッチや、胸郭の動きを改善する呼吸法なども有効です。患者の理解度と継続性を考慮し、シンプルで効果的な内容を選びます。
Q. この症例を通じて「治せる治療家」になるために必要なことは?
A. 痛みの局所から一歩引いた視点を持ち、全身の機能ユニットと神経構造の連動性を理解することです。教科書通りの見立てに固執せず、「なぜこの症状が続いているのか」を深く臨床推論する習慣を身につけることが、「治せる治療家」への第一歩となります。
術後疼痛のように複雑な症例の見立てを深めたい方は、山根悟(D.C.)が主宰するGAPアカデミーのセミナーで、実技を含めて体系的に学べます。月3回開催されるセミナーでは、神経構造アプローチの核心を臨床推論と症例ベースで習得し、明日の臨床から「治せる」を再現する治療家を目指すことができます。国家資格保持者の皆様、学校で習った先の世界がここにあります。もう一段階深い見立てを身につけ、患者さんの未来を変える第一歩を踏み出しませんか。
GAPアカデミーのセミナー情報
理論と技術を確立でき治せる柔道整復師・鍼灸師・セラピストを育てるセミナー(GAP理論に基づいたカイロプラクティック技術指導)
主宰: 山根悟(D.C.(Doctor of Chiropractic))
開催: 月3回のセミナーを開催しています
治療方法に困っているセラピスト・国家資格保持者の方は、ぜひ一度サイトをご覧ください。



